だから聖女はいなくなった

2.

 あれを知ってからというもの、ミレイナは落ち着かなかった。誰かに聞いてもらいたいが、誰に言ってもいけないような気がしていた。
 もちろん神殿の者には言えない。神官にも巫女にも言ってはならない。
 だが、ミレイナには家族はいない。そして友達も言えない。

 そんな彼女の様子に気づいたのはユリウスである。彼女の些細な変化に気がついたようだ。少しだけ、表情が曇っていたのかもしれない。
 ほんのわずかな時間であるのに、彼は少しずつミレイナから話を聞き出した。
 ユリウスは、誰にも伝えたくない話は紙に書いてはいけないと言った。だから、手紙ではなく彼に直接伝えた。

 聖女のこと。
 神殿のこと。
 そして、竜のこと。

 二人だけで過ごせるときに、少しずつ。誰にも知られないようにと、ひっそりと。
 時間はかかったが、ユリウスはミレイナの置かれている立場を理解してくれた。
 だから彼は、口にする。

『俺と、逃げよう』

< 156 / 170 >

この作品をシェア

pagetop