だから聖女はいなくなった
 そうやって今までのことを忘れるかのように幸せに浸っていると、ミレイナは赤ん坊を授かった。もちろん、ユリウスとの子である。
 しかしミレイナは悪阻が重かった。
 それに気づいたのは、村長の妻であるレオナである。彼女もまた、待望の第一子を授かったところで、自身も似たような経験をしたばかりだからと気にかけてくれたのだ。

 それに、王都から慣れないこちらに来て不安だろうと、以前から何かと気を配ってくれたのも彼女だった。

 そこから二人の距離は一気に近づき、互いの家を行き来するようになる。といっても、ミレイナがレオナの屋敷を訪れるほうが圧倒的に多かった。

 ゆるやかに時間は過ぎていき、レオナが男の子を産み、その子はカメロンと名付けられた。
 それから三か月後、ミレイナは女の子を出産した。ラッティと名付けられた赤ん坊は、ミレイナによく似た可愛らしい子で、これにはユリウスも目に涙をためながら喜んだ。

 それでも幸せな時間は長くは続かない。

 ラッティを産んでから、ミレイナの様子がおかしい。
 産後に訪れる気が沈むような状態かと、ユリウスは思っていた。

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