だから聖女はいなくなった
 徐々に生活が苦しくなっている。

 ミレイナはユリウスを説得する。本当はミレイナだって怖いし、あそこに戻りたくはない。それでもそう心に決めたのは、産まれたばかりの我が子を想うためだった。

 何も知らないラッティは、鼻をすぴすぴ鳴らしながら眠っている。

 ユリウスだって簡単にミレイナの言葉を受け入れたわけではなかった。幾度か声を荒らげた。そのたびに眠っているラッティの身体がピクっと震え、ふにゃふにゃと声をあげる。
 その声を聞いて我に返る。
 それの繰り返しだった。

 最終的にユリウスがミレイナの言葉を受け入れた。互いに譲らなければ、話は平行線のまま終わらなかっただろう。
 ユリウスが折れたのは、やはりラッティのためだった。
 娘を想う、ミレイナの気持ちを踏みにじりたくなかった。

 そしてミレイナは、神殿へと自らの意思で戻った。
 ユリウスは、ミレイナがいなくなってから数日は、彼女は病気で寝込んでいるといって誤魔化し、そしてその後亡くなったと村には伝えた。

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