だから聖女はいなくなった
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 ラティアーナがすべてを知ったのは、神官たちがやってくるほんの一年前のこと。家の掃除をしていて、偶然に見つけてしまった手紙。
 それは歴代の聖女たちが書き記した手紙だった。それは母親の荷物から出てきた。
 本と本の間に挟まっていた。

 だからラティアーナはすべてを知った。
 母親が聖女であったこと。
 そして、神殿と竜のこと。

 この国は、竜によって支配され、弄ばれている。
 竜は、気まぐれに目覚めて気まぐれに眠り、もがき苦しむ人々を見て楽しんでいる。

 ラティアーナが神殿へと向かったのは十四歳のときだった。竜の世話人として指名されたが、このときはまだ聖女とは呼ばれていなかった。
 竜は目覚めたが、その事実が民には隠されていたからだ。
 神殿は隠しごとが得意である。ミレイナがいなくなった事実さえ、隠していた。
 ラティアーナは巫女として神殿に仕え、十六歳になってすぐに聖女と呼ばれるようになった。

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