だから聖女はいなくなった
 これですべてが終わった。
 王太子の婚約者という役も、聖女という役も、すべてを演じ終えた。

 あれだけ竜を殺したいと思っていたのに、それを誰かがやってくれるなら、それでもいいかなと思い始めた。

 ラティアーナの心の中で、何かが音を立てて崩れた瞬間でもあった。

 もう、疲れた。
 他人のためにではなく、自分のために生きたい――
 復讐のためではなく、幸せを望みたい――

「ラッティ……、眠ってるのか?」
「ん? 起きてる……」

 ソファに座って懐かしい絵本を読んでいたが、少しだけうつらうつらとしていたようだ。膝の上には、読んでいた絵本が広げられている。竜を倒すという神殿の教えに反する、過激な絵本でもある。どこか手作りに見えるその絵本に作者の名前は書かれていない。
 ちょうどそこに、湯浴みを終えたカメロンがやって来て、今にも眠りこけそうなところに声をかけてきた。

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