だから聖女はいなくなった
 彼女は聖女の名残で、竜の存在をなんとなく感じるようだった。だが、その力も薄れてきているようだ。これ以上は、もう何も言うことはないと口にする。

 テハーラの村から戻ってきた後、サディアスは神官長に詰め寄って、二十年前の話を聞いた。不慮の事故で亡くなったとされていた聖女だが、彼女は急に消えたと言う。
 神殿は隠し事が得意である。

 だけど、彼女の話を聞いていたから、ピンとつながった。
 間違いなく竜に食べられたのだ。

 聖女の部屋が竜の間に近いのは、それが理由だった。他の者が気づかぬうちに、聖女はいなくなる。そして、竜は眠りにつく。

 ――あなたたちは、それがおかしいとは思わないのですか!

 サディアスの声が、神殿内に静かに響いた。



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