だから聖女はいなくなった
 竜を殺したのは第二王子のサディアスである。神官たちが止めるのを聞かずに、彼は自分の背丈ほどのある大きな剣で、竜の額を一気に突き刺した。
 その姿はまるで、孤児院の子どもたちが読んでいた絵本に出てくる勇者のような姿であったと、それを止めようとした一人の神官の言葉である。

 彼女の言う通り、すでに厄災は始まっていた。地方部は大嵐に襲われ、そのまま嵐は移動して、王都を雨風に飲み込んだ。
 ほどよい雨は恵の雨であるが、多すぎる雨は山を崩し、川を溢れさせ、家屋や畑を押し流す。

 国を庇護する竜と聖女アイニスが立ち上がり、()()を起こした。

 だからサディアスも決死の覚悟で心を決めた。ラティアーナを信じた。

 キンバリーの予備として育てられたサディアスだが、キンバリーのためでなく、自分のため、国のため、そしてラティアーナとの約束を守るため、決心したのだ。

 竜の弱点を教えてくれたのは、もちろんラティアーナである。

 仕事を終え満足そうに眠っていた竜は、サディアスの一撃で目を覚まし、ひとしきり大暴れした後、永遠の眠りについた。身体はさらさらと砂のように崩れ落ち、光の粒子となって消え去った。

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