だから聖女はいなくなった
 国を庇護している竜は、むしろ国を支配していた。
 聖女を糧として、その力と記憶を取り込んでいた。

 ――聖女(誰か)の犠牲のうえに成り立つ平和は、真の平和と呼べるのでしょうか?

 竜がいなくなったレオンクル王国に、聖女はもういない。
 竜を討った王子と、それを命じた王太子。
 だが、神殿は隠し事が得意である。その事実さえ、民には隠された。

 ――竜と聖女がいなくなり、混乱に陥っている国をしっかりと導いてほしいのです。

 サディアスはラティアーナの言葉をキンバリーに伝え、キンバリーもその言葉を深く噛みしめる。
 竜もいない、聖女もいない。
 大きな変化は、民を混乱に導くかもしれない。暴動が起き、非難されるかもしれない。そもそも、人の穢れを一手に引き受けていた竜がいなくなった。
 だからこそ、人の本質が露わになる。

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