だから聖女はいなくなった
『珍しいですね』

 サディアスが声をかけると、ラティアーナは少しだけ頬を赤らめた。

『王太子の婚約者として相応しい格好をしなさいと、神官長から注意を受けたのです』

 そのような格好をするのが恥ずかしいのか、注意を受けたことが恥ずかしいのか。それでも、彼女の顔は赤く染められていた。

 だが、キンバリーが言った内容は、彼女から聞いた内容とも異なる。

「私は、彼女に贅沢をさせるために寄付をしたわけではない。せめて、あの神殿にいる者たちに少しでもよい生活をと思っていたのに、その気持ちが彼女には通じなかったのだよ。あんなドレスなど、こちらでいくらでも準備できたのに……。結局彼女も、他の女と同じように着飾ることにしか興味のない女だったんだ」

 彼は本当にそう思っているのだろう。悔しそうに肩を震わせている。

「私は、ラティアーナを見損なったよ。信じていた彼女に裏切られたのだ。このときの気持ちがお前にわかるか?」

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