だから聖女はいなくなった
 キンバリーは素直過ぎる一面もある。そして、疑い深く嫉妬深いという側面も持つ。
 信用した者の話は素直に受け入れ、自分の信じない者の話は疑う。
 それが人間の本質と言われればそうかもしれないが、その傾向が誰よりも強いのがキンバリーという男なのだ。

「彼女は自身の身なりに金をかけ、食事は神殿が与えるいつものものをとっていた。私がそれとなく食事について聞いても、神殿が与えてくれるものだから意見はできないと言う。私が寄付した金があるだろうと叫びたくなったが、それだけは堪えた。気づかぬ振りをして、彼女の話を黙って聞いていた」
「だから兄上は、ラティアーナ様との婚約を解消され、アイニス様と婚約し直したのですね。ラティアーナ様が信じられなくなって……」

 キンバリーの身体の震えが止まった。軽く息を吐き、紅茶のカップに手を伸ばす。中身はとっくに冷めている。冷めた紅茶は、渋みを強く感じる。

 彼は顔をしかめた。やはり渋かったようだ。

「私がラティアーナに失望したときに、寄り添ってきたのがアイニスだ。アイニスの優しさに甘えてしまったのかもしれない……」

 間違いなくそうだろう。そしてアイニスはそれを狙っていたにちがいない。
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