だから聖女はいなくなった

4.

 そもそもアイニスは、ラティアーナの友人にどうかとウィンガ侯爵自らが売り出してきたのだ。

 神殿で暮らしていたラティアーナが、いきなりこちらの生活に馴染むのは難しいし心細いだろうと。同い年の娘がいるから、彼女の話し相手にどうだと。そんな提案だったような気がする。

 昔から王城を自由に出入りできるような身分のウィンガ侯爵の話は、キンバリーも素直に受け入れた。
 ラティアーナにそのことを話すと、彼女も静かに頷いた。

 その後、アイニスも我が物顔で王城に出入りするようになったのだ。王太子の婚約者の話し相手という立派な役目を与えられたと、アイニス本人は思っていたにちがいない。物憂げなラティアーナと違い、アイニスはどこか自身に満ち足りていた。

 だが、ラティアーナだって毎日王城に来るわけではない。神殿での生活があり、竜の世話だってある。孤児院に足を運び、慈善活動も行う。その合間をぬってキンバリーに会いにきて、さらにアイニスとお茶をする。
 その生活を想像しただけでも、彼女が多忙であるとわかる。

 さらに、食事は先ほどキンバリーが口にした質素なもの。むしろ、あれを食事と呼んでいいのだろうかとも思えてくる。
 彼女の身体は限界がきていたのではないだろうか。よく倒れずにいれたものだと、逆に感心してしまう。

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