だから聖女はいなくなった
「だが、今になって思うよ。アイニスと神官長が言っていたことは、本当に真実だったのだろうか、と」

 悔しそうに目を伏せる。

 サディアスは、この兄が愚かでかわいそうだとも思った。ラティアーナの話をきちんと聞いていれば、どこかの矛盾に気がついたはずだ。むしろ、彼女がそのような人間ではないと、わかったはずだ。

「兄上は、ラティアーナ様ときちんと話をすべきでしたね」
「そうだな……。失ってから、大事なものの存在に気づく。それでは遅いというのに」

 この世に当たり前なんて存在しない。だが、いつものことが当たり前になり、それのありがたみが薄れていく。

「兄上が気にされているのであれば、ラティアーナ様に謝ったらどうですか? もしくは、感謝の気持ちを伝えるとか」
「感謝の気持ち?」
「ラティアーナ様は、貴重な時間を使って、兄上の執務を手伝っていたわけですよね。それに対して、きちんと礼を口にしたことはありますか?」

 その言葉を噛みしめるかのように、キンバリーは考え込む。
 サディアスはその様子をじっと見つめ、彼の次の行動を待つ。

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