だから聖女はいなくなった
「なかったな……。もしかして、彼女がすんなりと婚約破棄を受け入れたのは、私のせいでもあったのかもしれないな……」
「兄上。ラティアーナ様にきちんと謝りましょう。そして、兄上の気持ちをきちんと伝えるべきです」
「私の気持ち?」
「兄上は気づいていないのですか? ラティアーナ様の話をされるときは、嬉しそうな表情をされているのですよ。ラティアーナ様に好意を寄せていたのではないのですか?」

 指摘された彼は、恥ずかしそうに口元を左手で覆った。きっと、にやけるそれを見られたくないのだろう。

「兄上。だから、彼女と別れるべきではなかったのですよ」
「そうだな……」

 たった一言であるのに、キンバリーからは後悔が滲み出ていた。

「アイニス様のことは、もう一度きちんとお考えください。将来の王太子妃として相応しい相手であるかどうか」
「だが、彼女はラティアーナから聖女の力を引き継いでいる。それがある限り、彼女は私の婚約者なのだよ」

 そうだった。ラティアーナはあの日、聖女の証であり聖なる力の源となる首飾りをアイニスに与えたのだ。

 ラティアーナには未練がなかったのだろうか――
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