だから聖女はいなくなった
 アイニスはラティアーナから神殿での話を聞きたかった。いや、どちらかというと、どうしたら聖女になれるのかという話だ。
 あんな田舎に、なぜ神官たちが足を運んだのかも気になった。神官たちは、聖女に相応しい女性を、自分たちの目で見て回ったのだろうか。そうであったとしても、まずは近い場所から見て回るのではないのだろうか。
 アイニスの元に、神官たちは来ていない。その差はいったいなんなのか。

『聖女の素質とはどのようなものでしょうか』

 少しだけ身を乗り出してみた。聞きたい。教えてほしい。

 だがアイニスの問いに、ラティアーナは「わかりません」と答えた。
 聖女になれる条件を聞きたかったのに、教えたくないのか本当にわからないのか、ラティアーナはそれ以上言葉を続ける気はなさそうだった。
 少しだけ目を伏せ、目の前のティーカップを見つめている。

 アイニスは困ってしまった。これでは話が続かない。アイニスも社交的な人間ではないが、ラティアーナと仲良くしなければならない。少なくとも、次にも会う約束ができるような関係になっておきたい。
 何か、話題を振らなければ。きゅっと胸が詰まる。

< 33 / 170 >

この作品をシェア

pagetop