だから聖女はいなくなった
『ですが、ラティアーナ様は、竜とお話ができるのですよね。もしかして、それが聖女の素質と呼ばれるものではないのでしょうか?』

 にこやかに微笑んでそう言えたはず。そして、当たり障りのない内容であり、アイニス自身が仕入れたい情報でもある。

 その言葉にも、ラティアーナは首を横に振った。

『竜とお話ができるのは、すべてはこの首飾りのおかげです。これが聖女の証であり、これを身に着けることで竜との会話が可能となるのです』
『その首飾りさえあれば、誰でも聖女になれると?』

 ラティアーナの話はそう聞こえた。
 だが、彼女はアイニスの問いに答えず、静かにカップを傾けて紅茶を口に含む。
 カップの中味が空になった頃、ラティアーナは神殿に帰る時間だと言葉にした。

 ラティアーナから、欲しい答えはもらえていない。すべてが曖昧なまま。

『まだ、キンバリー殿下とお会いしていないのではないですか?』

 アイニスはそれまでの時間つぶしの相手だったはず。

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