だから聖女はいなくなった
 一口飲んでみると、口の中に清涼感が広がっていく。今まで味わったことのないお茶である。

「デイリー商会で扱っているのです。もし、サディアス様が気に入ったのであれば、口添えいたしますが?」
「お気遣いありがとうございます」

 そう言って、その場は誤魔化す。不味くはないが、何度も飲みたい味かと問われるとそうでもない。こうやって付き合いであれば飲んでもいい。その程度のものだ。

 アイニスもサディアスの気持ちを汲み取ったのだろう。それ以上は何も言わない。人には好みというものがある。それを押し付けないところは評価したい。

「こちらの生活には慣れましたか?」

 口の中からお茶の味が消えた頃、サディアスは尋ねた。

 本来であれば神殿で暮らす必要がある聖女を、王太子妃教育があるからという名目とその他いろいろと理由をつけて、王城で引き取っているのだ。
 そうさせたのはキンバリーなのだが。

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