だから聖女はいなくなった
 その様子を見た彼女も、安堵のため息をこぼす。何か咎められるとでも思ったのか。

「それも兄とウィンガ侯爵が話をして。私は彼の養女となりました。私としては、どちらでもよかったのですが……」

 それは、ウィンガ侯爵と結婚してもよかったと、そう聞こえる。
 幼い頃から家族に利用されている彼女だからこそ、それがおかしいと思っていないのかもしれない。
 だがサディアスも、わざわざその件に関して確認しない。触れてはならない内容だってあるのだ。

「あの兄と離れることができれば、どちらであっても大した問題ではないのです」

 まるで言い訳でもするかのような呟きだった。

「ですが、ウィンガ侯爵の養女となりまして、ラティアーナ様と知り合うことができました。彼女が南のテハーラの出身であると、ご存知でしたか?」

 サディアスの心臓が震えた。
 知らない。

「い、いいえ……」

 サディアスの知らないラティアーナを知っているアイニスに対して、ぶわっとどす黒い感情が生まれた。

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