だから聖女はいなくなった
「サディアス様とお話をしたら、一気にお腹が空いてしまいました。最近、ずっと食欲がありませんでしたの……」

 そう言った彼女の頬にも明るさが戻ってきている。

「サディアス様のおっしゃる通りですね。すべては縁。きっと、ラティアーナ様は縁に恵まれていたのでしょうね。お話を聞いたとき、心底羨ましいと思いました」

 田舎に住んでいた少女が聖女に見初められ、さらに王太子の婚約者となる。その話を聞けば、誰だって羨ましいと思うだろう。その気持ちを隠すか曝け出すかの違いだ。

「私は、ずっと兄の言うことを聞いて我慢してきました。その結果、得たのが侯爵令嬢という地位です。ですが、ラティアーナ様は? あの方は、何か苦労されましたか? 私には苦労しているようには見えなかったのです」

 気持ちを落ち着かせるためか、彼女は残っていたお茶を一気に飲み干した。

「ラティアーナ様の友人となり、一緒にお話もしましたが。あの方はいつもにこやかに微笑んでおりました。だから、私から見たら、本当に羨ましい存在だったのです。いつの日からか、私が聖女だったら、私がキンバリー殿下の婚約者だったら……。そう思うようになっておりました」

 彼女の気持ちもわからなくはない。サディアスだって、キンバリーを羨ましいと思ったことは多々あるからだ。

「突然、ラティアーナ様のお召し物が変わったの、ご存知でしたか?」

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