だから聖女はいなくなった
 となれば、村長の屋敷で神官たちをもてなす必要がある。屋敷に彼らが休める部屋を用意し、食事を振舞う。
 村長とその息子のカメロンは、少々緊張しながらも、神官たちと夕食を共にした。
 長閑な村なので、贅沢な料理など用意はできない。それでも神官たちは始終にこやかに、料理も素材の味が生きていると褒めながら、口にしていた。

 その食事の席で、神官はこの村に聖女がいると言った。

『国のために、彼女を神殿に預けてほしい』

 こんな田舎の村から聖女が輩出されるなど、たいへん名誉なことである。
 そう思った村長は、息子のカメロンと顔を見合わせてから、二つ返事で了承した。
 神官たちは破顔し、感謝の言葉を口にする。

 だが神官が聖女として選んだ女性がラッティと知ると、村長とカメロンは激しく後悔した。
 ラッティは父親と二人暮らしであり、その暮らしは慎ましい。だが、子どもたちから好かれ、村人からも慕われている。
 彼女の父親はこの村の出身であるが、王都の学園へと通い、そこで騎士として王都の警備や要人の警護などに従事していた。
 そこで伴侶と出会い、結婚を機に故郷であるこの村へと戻ってきたのだ。そして二人の間に生まれたのがラッティである。
 自然と、同じ時期に生まれたカメロンと仲良く育つ。
 ただ、ラッティの母親は、彼女産んですぐに亡くなってしまった。

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