だから聖女はいなくなった
 村長は、カメロンの相手が騎士の娘であるラッティであれば、なんら問題ないと思っていた。何よりも、カメロンがラッティを慕っているし、ラッティもカメロンを慕っている。お互いの気持ちが一番だと、カメロンの母親は言っていた。

 そんな状況でありながらも、ラッティとカメロンのほうが大人だった。
 彼らは現実を受け入れ、別れを惜しんだ。
 カメロンは黙って唇をかみしめ、ラッティの背を見送った。彼らはけして涙を見せなかった。

 ラッティの父親は、幾言か神官に文句を言ったらしい。言い合いしている様子を、村の者が目にしていた。父と娘で二人暮らしをしていたのだから、彼の気持ちもわからなくはないと、目撃した村人も同情する。

 それでもラッティは神官たちと共に、神殿へと向かったのだ。

 だが、その後すぐに、彼女の父親は不幸な事故で亡くなってしまった。
 それは、ラッティが旅立った次の日。農業用水をためておく沼に浮かんでいた。
 沼の周りを散歩していて、足を滑らせ、誤って沼に落ちてしまったのだろうと、村の者たちは思った。
 だが、村長とカメロンはそうは思っていない。

 彼らは、旅立ったばかりのラッティを不安にさせないようにと、しばらくの間、父親が亡くなったことを黙っていた。
 ひっそりとラッティの父親を弔った。
 カメロンは静かに目を伏せた。
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