だから聖女はいなくなった
「王族の方々は、何か誤解をされているようですね。聖女を選ぶのは竜王様。竜王様がラティアーナを選んだから、『聖女の証』を彼女に与えたのです」

 それはラティアーナが聖女となったときの話である。竜がラティアーナを聖女として選んだため、神官長は神殿で保管していた聖女の証である月白の首飾りを彼女に授けた。

「となれば。ラティアーナ様がアイニス様に『聖女の証』を与えたとしても、アイニス様は聖女にはなれないということですか? 今でも正式な聖女はラティアーナ様なのでしょうか?」

 ふん、と神官長は鼻で息を吐く。その仕草すらわざとらしい。まるで、サディアスを馬鹿にしているような感じさえする。
 いや、ばかにしているようなではなく、ばかにしているのだろう。聖女ラティアーナを王族の不手際、いやキンバリーのせいで失ったとでも言いたいかのように。

「聖女は、竜王様がお認めになるか、聖女から聖女へと引き継ぎされるかのどちらかです。聖女ラティアーナがアイニスを聖女として認めたのであれば、誰がなんといおうとアイニスが聖女になるのです」

 それもどこか冷たい声。淡々とした、感情の色を押し込めた声で、神官長は説明した。

「そうですか……」
「サディアス様からも、王太子殿下とアイニスに伝えていただけませんか? 聖女は神殿で暮らす必要があると。神殿の暮らしによって、聖女の穢れは浄化されるのです」

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