だから聖女はいなくなった
「兄とラティアーナ様の婚約は、竜が決めたと?」

 神官長はカップの裏が見えるくらいに傾けて、お茶を飲み干している。そのたびに喉元は上下するが、その時間が異様に長く感じられた。

「ああ、すみません。喋ったら、喉が渇きましてね」

 ベルを鳴らし別の神官を呼ぶと、神官長はお茶を淹れるようにと命じた。
 その神官が部屋を出ていく様子を、サディアスは目で追う。

「何を話していましたかな……。あぁ、そうでした。ラティアーナの婚約についてですね」
「そうです。ラティアーナ様と兄の婚約は、竜が決めたのですか?」
「そうですよ。竜王様は、このレオンクル王国の未来を案じております。ですが、ラティアーナと王太子殿下が夫婦(めおと)となり、二人の間に新たな命が育まれることで、この国の未来は明るいだろうと、そうおっしゃっておりました。竜王様が決めたというよりは、認めた、ですね」

 サディアスは眉間に深くしわを刻む。

「ですが、ラティアーナ様は自身が聖女であったために、兄と婚約したと。聖女であることが王太子との婚約の条件であったと。そう思っていたようですが」
「彼女は少し、思い込みの激しいところもありましたからね」

 神官長は目を細くして、口角をあげた。
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