だから聖女はいなくなった
「どういう意味、でしょうか?」

 一際低く、尋ねた。目を狭めて、神官長を鋭く睨みつける。

「サディアス様もご存知でしょう。陛下の即位二十周年記念パーティーでの茶番劇を。王太子殿下がラティアーナに婚約破棄を突きつけ、ラティアーナは自らの意思で聖女を辞めた。本来であれば、これはあってはならないのです」

 聖女が次の聖女を指名するときには、相手もそれを受け入れる覚悟が必要だと神官長は言った。そうでなければ『聖女の証』が次期聖女にふさわしくないと反応するらしい。

 だが、あのときのアイニスは聖女になりたがっていた。したがって、難なくアイニスが次期聖女となったのだ。

「先ほども申し上げましたが、ラティアーナ様は聖女だったから兄と婚約したと。本人はそう思っていたようですね。婚約者でなくなれば、必然と聖女でなくなる。だから、アイニス様が兄の婚約者として指名されたことで『聖女の証』を託した。ようは、王太子の婚約者が聖女であると、そう判断したのでしょう」

 その通りですと、神官長も首肯する。

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