だから聖女はいなくなった
「我々としては、勝手に婚約を破棄した王太子殿下に腹立たしい思いはあります。ラティアーナは忙しい時間の合間をぬって、王太子妃の教育を受けるために王城へも通っておりました」
「はい。それは重々承知しております。ですが、兄はこちらの神殿に個人的に援助をしていたという認識です。その援助が適切に使われなかったため、今回の婚約を破棄したと。神殿とのつながりを断ち切ろうとしたわけです」
「王太子殿下の寄付は受け取りました。ありがたいことです」

 神官長は目を細くした。少し穏やかな表情になったのは、心からの感謝の表れだろうか。

「その寄付は、神殿での食事改善のために使ってほしいと寄付したものであると、認識しております」
「はい、王太子殿下のおかげで、食事は少しずつ改善されております」
「ですが、ラティアーナ様は……。まともな食事をとられていなかったようですが?」

 そこでサディアスは視線を鋭くする。キンバリーの寄付がどのように使われていたのか、それを把握したいのだ。

「ラティアーナは食が細いのです。こちらが食べるようにと食事をすすめても、彼女は少しばかりのパンとスープで十分だと、そう言っておりましたね。もし、神殿内での食事を疑うのであれば、あとで食堂も見学していってください。やましいところなどありませんから」
「わかりました。あとで、確認させていただきます」

 そうサディアスが返事をすると、神官長も満足そうに頷いた。

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