だから聖女はいなくなった
「ところで。もう一つ確認したいことがあるのですが」
「なんなりとどうぞ。我々に、やましいことなどございませんから」
「兄からの寄付金で、ラティアーナ様がドレスを仕立てられたというのは事実ですか?」

 神官長の目は、ぐりぐりと大きく見開いた。

「ええ。ラティアーナが王城へ行くのに、巫女姿のみすぼらしい服ではかわいそうだと思いましてね。王太子殿下の婚約者としてふさわしい服を仕立てるようにと、彼女には言ったのです。ですが、彼女もそういったことには疎いようでしたので、ドレスはすべて仕立て屋にまかせました」

 神官長が嘘をついている様子はみられない。

 神殿がけして裕福ではないこともわかっている。
 聖女のドレスを仕立てる。そしてその婚約者が寄付金を出した。となれば、その金から出すのが妥当なのかもしれない。

 ――この金でドレスを仕立てろ。

 渡された寄付金を、そういった意味でとらえたのだろうか。
 サディアスは話題を変える。

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