だから聖女はいなくなった
 だが、これ以上ここにいても、実になる話は聞けないだろう。

 サディアスは、神官長に案内されながら、神殿の食料庫と厨房を確認した。ちょうど幾人かの巫女が、夕食の準備にとりかかろうとしているところだった。それをしばらく見学してから、神殿を後にした。

 馬車に乗り込んだサディアスは、護衛の者に付き添われながらも、不規則な心地よい揺れによって、うとうととし始めた。
 神殿は、キンバリーからの寄付金をきちんと食費に当てていた。そしてその一部の金でラティアーナのドレスを仕立てたようだ。
 どのようなドレスにするかは仕立て屋に丸投げしたのだろう。予算、デザインなど、そういった内容については、神殿は関与していないようだ。

 ラティアーナは寄付金を私的に使っていたわけではない。ドレスを仕立てたのは事実であるが、それもキンバリーの婚約者としてふさわしいようにという、周囲のその気持ちからくるものだった。

 それが人を介して、歪んでキンバリーに伝わったに違いない。歪んで伝わった挙句、さらに歪めて解釈をした彼が、ラティアーナを信じられなくなったのだ。

 一つのほころびが次第に大きくなり、気がついたときには大きな穴が開いていた。
 最初のほころびはなんだったのだろうか――。

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