だから聖女はいなくなった
 馬車が止まり、サディアスははっと目を開ける。
 しっかりとした足取りで馬車を降り、向かう先はキンバリーの執務室。

 コツ、コツ、コツ、コツとゆっくり扉を叩くと、中から返事があった。

「サディアスです」
「入れ」

 サディアスの姿を見た途端、キンバリーは目尻を緩めた。それでもその顔には疲労の色が濃く表れている。
 キンバリーはすぐに呼び鈴を鳴らして、侍従を呼びつける。音もなく現れた侍従は、お茶を準備するとすっと姿を消す。

「それで、どうだった? ラティアーナの居場所はわかったのか?」
「いえ。神殿でも把握していないようです。ですが、神殿側もラティアーナ様を聖女として望んでいるようでした。アイニス様は、神殿での竜の世話も渋っているようですからね」

 あのようなものを見せられたら、誰だってやりたくないだろう。サディアスだってお断りだ。

「あぁ……まぁ、そうだろうな。あれには、聖女としての自覚も足りない。まして、私の婚約者という自覚もな」

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