だから聖女はいなくなった
 悔しそうに呟いた。
 いなくなってからその人物の重要性に気づいたって遅いのに、いなくならないとわからない。あまりにも近くにいすぎて、それが当たり前だと思っていたのだろう。

 世の中、当たり前など存在しない。

「ラティアーナの居場所に心当たりは?」
「神殿にいなければ、やはり故郷に戻ったか……」
「だが、ラティアーナに家族はいない。母親は彼女を産んですぐに亡くなったと聞いているし、父親も、ラティアーナがこちらに来てすぐに亡くなったようだ」
「他にラティアーナ様に関係のあるような場所は……」
「……孤児院」

 ぽつりとキンバリーがこぼした。

「もしかして、孤児院にいないだろうか。彼女は、子どもたちに好かれていたし。マザーとも仲がよかった」

 となれば、ラティアーナが孤児院にいることも十分に考えられる。

「そうそう、兄上。アイニス様のことですが……」

 そこでサディアスは話題を変えた。
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