だから聖女はいなくなった
 そこでは別の子どもたちがお菓子を作ろうとしているところだった。子どもたちはラティアーナを待っていたのだ。

『ラティアーナ様、お菓子を作りましょう』

 厨房の作業台の上に並べられている小麦粉は、王城からの寄付金で購入したものだ。この小麦粉で、子どもたちはビスケットを作る。
 ラティアーナはビスケットの作り方を子どもたちに教えると、マザーには火を使う時だけ注意するようにと言づけて、次の部屋へと移動する。

 その部屋では、子どもたちが編み物や刺繍をしていた。
 ここにいる子どもたちは、少し年上の子どもたちだ。自分のことはある程度自分ででき、マザーの手伝いもするような年代。そして、本当にあと一、二年でこの孤児院を出ていかなければならないような子どもたち。
 だからこそ編み物や刺繍を学び、工場で針子として働けるようにと、今から練習をしている。そして作ったものはバザーで売り、孤児院のささやかな収入に当てている。

 バザーには収入を得る以外の役目もあった。こうやって子どもたちが作ったものを売ることで、子どもたちの才能を他の人に示す場でもあるのだ。
 過去にも、バザーで売っていた刺繍をすばらしいと褒めた商人が、その刺繍をした子を針子として雇っている。

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