だから聖女はいなくなった
 ラティアーナは孤児院で子どもたちに字を教え、おやつを共に作り、刺繍と編み物を行い、元気な子どもたちと外を走り回っていた。
 それを終えると、子どもたちと一緒におやつを食べた。

 些細な時間であるが、彼女はそれらを通して子どもたちに自立できる力を身に着けさせていたのだ。

 本を読めば自然と文字を覚える。覚えた文字を書かせることで定着する。
 おやつを作るのは、料理をするための基本事項を教えるため。刺繍や編み物は針子として働くために必要な技量であるし、外を走ることで体力をつける。
 もちろん、子どもたち自身はそれに気づいていないし、もしかしたらマザーも気づいていないかったのかもしれない。
 彼らが孤児院から出たときに、少しでも使える力を身に着けてほしいという思いがラティアーナにはあったのだ。

 今ではデイリー商会のお針子として働いている少女は言う。

『ラティアーナ様のおかげで、こうやって仕事を得ることができました。針子としての仕事はもちろんですが、読み書きも少しはできますので』

 ラティアーナが孤児院に足を運んだのは、たった二年であったのに、それでも子どもたちはめきめきと能力を身に着けていたのだ。

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