だから聖女はいなくなった
『ラティアーナ様が……聖女をおやめになったとお聞きしたのですが……』

 彼女もどこか言いにくそうに尋ねてきた。それでもラティアーナがどうしているのか、気になっているのだろう。
 ラティアーナが今、どこで何をしているのか、誰も知らない。神殿ですら把握していないのだから。

『そうなのですね……。ラティアーナ様には、感謝しても感謝しきれません』

 彼女は微かに微笑んだ。


 さらに、同じくデイリー商会で働いている少年も口にする。

『ラティアーナ様が孤児院に来て下さるようになったのは二年前ですが、それまでと僕たちの生活はがらりと変わりましたよ』

 彼は体力があるため、主に商会で扱う商品の荷下ろしを行っている。

『それまでは、僕たちもマザーも。ひもじい思いをしていましたからね。ここだけの話ですが……』

 そこで彼は少しだけ声を落とす。

< 88 / 170 >

この作品をシェア

pagetop