だから聖女はいなくなった
『昔から寄付というものはあったらしいのです。だけど、その寄付は孤児院ではないところに流れていたみたいなんですよね。誰の寄付がどこにいっていたんでしょうね。不思議です』

 そう言って首を傾げた彼は、本当に不思議そうに目を細くしていた。

『だけど、ラティアーナ様が孤児院に来てくださるようになってから、その寄付というものがきちんと届くようになったんです。最初の寄付と、届けられた寄付が同じところからのものかどうかはわからないですけど』

 この子は賢い。
 だがそこで、彼は商会の人間から呼ばれた。

『あ、すみません。もう、休憩時間が終わるので』

 貴重な時間に付き合わせて悪かったと言うと、彼は『久しぶりにラティアーナ様の話ができて嬉しかったです』と、笑みを浮かべていた。

 ラティアーナは孤児院の子どもたちから好かれていた。そして、同じくらい感謝されている。

 ラティアーナは今、そんな子どもたちのことをどう思っているのだろう――。
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