だから聖女はいなくなった
『隣に座ってもよろしいですか?』

 いつもより心臓が力強く動いている。少しだけ、胸が痛い。

『どうぞ。ここはわたくしだけの場所ではありませんもの』

 その言葉でうるさかった高鳴りが落ち着き、胸の痛みも和らいだ。断られるのが怖かったのだ。

『では、失礼します』

 すとんと彼女の隣に腰を下ろす。

『花冠を作っているのですか?』

 見ればわかるのに、サディアスはそう尋ねていた。少しでも会話をしたいと望む気持ちからくるものだろう。

『ええ、少し時間が空いてしまって』
『今日は、兄に会いに来られたのですよね』
『そうですね。そういうお約束でしたから』

 手はしっかりと動かしながらも、彼女は少しだけ視線を逸らした。

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