だから聖女はいなくなった
 だが、そんなサディアスの心境に気づきもしないマザー長は言葉を続ける。

「ラティアーナ様がこちらに来られるようになってから、子どもたちの生活もよくなりましてね。一番は食べ物です。三食しっかり食べられるだけでなく、おやつも与えることができるようになりました。ですがこのおやつは、子どもたちが作っているのですよ」

 マザー長はそれが誇らしいのだろう。口の脇と目尻にしわができるほど、破顔する。

「本当にラティアーナ様にはなんて御礼を言ったらいいか……」
 その言葉と彼女の表情を見れば、ラティアーナがどのように思われていたかだなんて一目瞭然である。

「もしかして、これもですか?」

 紅茶と一緒に出されたにビスケットにサディアスは視線を落とす。よく見ると、少しだけ形がいびつにも見える。

「そうです。これも子どもたちが作りました」
「いただきます」

 子どもたちが作ったと聞いたのなら、食べないわけにはいかないだろう。

「やさしい味がしますね」

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