だから聖女はいなくなった

3.

 サディアスが孤児院内を歩くと、どこからか子どもたちの元気な声が聞こえてくる。
 この時間の子どもたちは活動的だ。
 まずは、子どもたちが集まっている場所へと足を向けた。

 大きなテーブルがいくつか並んでいて、それぞれ子どもたちは好きなことをしている。

 本を読んでいる子。字を書いている子。絵を描いている子。編み物をしている子――。

 ここにいない子どもたちは、厨房にいるか、もしくは外を駆け回っているのだろう。

「今日は、サディアス様がいらっしゃいましたよ」

 マザー長の言葉で、子どもたちの視線が一気に集まった。子どもたちの目はいつもキラキラと輝いているはずなのに、今日は少しだけ淀んでいる。

「サディアス様が、絵本を読んでくださるそうです」

 それがここに来たときの通過儀礼のようなものだった。サディアスは絵本が並んでいる棚から、適当に一冊抜き取った。だが、それですら違和感を覚える。

< 97 / 170 >

この作品をシェア

pagetop