ありがとうって伝えたい 祖父編
「ぅぅうっ」

 張り詰めていた糸がぷっつりと切れたように感じた。いくら歯を食いしばっても涙が止まる気配はなかった。

「ぅぅうあああああああああああああッ!」

 母の温かな胸の中で思い切り声を上げて泣いた。「大丈夫、大丈夫だからね」と母はずっと頭と背を撫でてくれた。

 それからどうなったのかはあまり記憶にない。救急車が来て、父が付き添い祖父を病院にまで運んで行ったが、祖父が生きて帰ってくる事はなかった。

 湯船に水没していた祖父の壮絶な最期が(まぶた)の裏に焼き付いて、(ひつぎ)の中で横たわる祖父の顔を(のぞ)くこともできなかった。

 あんなに大好きだった祖父との最後のお別れだったのに、とにかく怖くて祖父の亡骸(なきがら)を前にすると全身が震えて、目を開ける事がどうしてもできなかった。
< 3 / 33 >

この作品をシェア

pagetop