秘密の彼氏は、私にだけ甘すぎる


「……っ」


『うん、そうだよ』って。木村さんの問いかけに、本当は今すぐにでも肯定したい。

でも……それはできない。


「ねぇ。前に長嶺くんが言ってた彼女って、白井さんのことだったの?!」

「何言ってるんだよ、木村さん……違うよ」


私から距離をとった翔也が、冷たい声で言い放つ。


「別に俺たち、付き合ってないから」

「あ……っ」


翔也の言葉が、刃のように私の胸にグサリと刺さる。


いくら私との交際を、皆に隠したいからって。

迷いもなくこんなにもハッキリと『付き合ってない』って言われると、さすがに傷つく。


「白井さんとは、たまたまそこで会っただけ。俺らは、ただのクラスメイトだよ」


『ただのクラスメイト』


「……っ、は……」


冷たい手で心臓を掴まれたみたいに、上手く息ができなくなる。


我儘かもしれないけど、せめて記念日の今日くらいは……いくら人前でもそんなふうに言って欲しくなかった。


翔也に自分の存在を否定されたみたいで、悲しくなる。


視界がだんだんとぼやけていき、私の頬を冷たいものが伝う。


「ひどいよ、翔也……」

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