秘密の彼氏は、私にだけ甘すぎる
木村さんたちの前なのに、口から溢れ出る言葉を抑えたくても抑えられなかった。
「いくらなんでも、今日くらいはそんなふうに言って欲しくなかった。翔也のバカ……!」
叫ぶように言うと、私は一人走り出す。
「はぁ、はぁ……」
内緒で付き合っている翔也とのデートはいつも、どちらかの家でだったから。
今日は出かけられて、嬉しかったのに。
今日彼と一緒に行った海の見えるカフェや公園、もらったプレゼントが次々と頭の中に浮かぶ。
ほんの少し前までは、幸せな気持ちでいっぱいだったのに。
一瞬にして、天国から地獄へと突き落とされたみたい。
私が走っていた足を止めたとき、鼻先にポツっと冷たいものがあたった。
「……え?」
空を見上げた瞬間、ザーッと打ちつけるような強い雨が降ってきた。
「うそ。さっきまで晴れていたのに」
私は、急いで近くのお店の軒下に入る。
「あーあ、濡れちゃった。この服、気に入ってるのに」
私は濡れたワンピースや自分の髪を、ハンカチで拭きながら思う。