秘密の彼氏は、私にだけ甘すぎる
俺が小学4年生になる春。
弟の潤が生まれた。
長嶺さんにとっては待望の我が子。
長嶺さんはとにかく潤を溺愛した。そして『潤、お前が俺の後継者だ』と、よく口にするようになった。
弟ができた今、長嶺家の中心にいるのはいつも潤だった。
「あなた。今日、潤が初めて立ったの」
「ほんとか!凄いな潤」
「今度パパにも見せてあげようね、潤くん」
継父と母、二人の視線の先にはいつも潤。
長嶺さんは、俺なんか見向きもしなくなった。
実の息子ができたことで『お前はもう用なしだ』と言われたみたいで。子供ながらに傷ついた。
母も……社長夫人として長嶺さんの会社のことと、幼い潤のことばかり。
「俺、久しぶりに母さんのハンバーグが食べたい」
「今、母さん忙しいから。また今度ね」
俺が話しかけても、母は全然こっちを見てくれない。
「ねぇ母さん、話があるんだけど……」
「忙しいから、あとでいい?」
「……」
いつしか『忙しい』が母の口癖となり、俺が好きだったハンバーグも作ってくれなくなった。
また『忙しい』と言われると思うと、いつの間にか俺は母に話しかけることすらできなくなってしまった。