秘密の彼氏は、私にだけ甘すぎる
「あの……大丈夫ですか?」
「……あ?」
声がしたので顔を上げると、同じ年頃の女が俺に傘を差しかけてくれていた。
「か……っ」
やっばい。女を見た瞬間、不覚にも俺は可愛いと思ってしまった。
「ひどい怪我。痛みますよね? 今救急車を……」
スマホを手にした女の腕を掴み、俺は首を横に振る。
「そんなの、呼ばなくて良い」
「でも!」
「お前も俺なんか相手にしてないで。さっさと家に帰れ」
「そんな! 怪我人を一人で放ったまま帰るなんてできません。ほら、立って……」
女が強引に、俺の脇へと腕をまわしてくる。
「ねぇ、早く立って!」
女の勢いに負けた俺は最後の力を振り絞り、彼女に支えてもらいながらなんとか立ち上がる。
「私の家、すぐそこだから」
そう言って彼女が連れて行ってくれたのは、歩いてすぐの明かりが灯る小さな店。
「……ホワイト・カフェ?」
「うち、喫茶店をやってるの。ほら、入りますよ。ただいまー」