透明人間になった君
ベランダの窓を開けっぱなしにしているため、どこか冷たい夜風に吹かれてカーテンがふわりふわりと何度も動く。部屋がチラリと見えるたびに、色鮮やかなあの頃を雫は思い出していく。

『これ、俺が初めて弾けるようになった歌なんだ!』

たまにギターで懐かしい童謡を弾いてくれた。雫がリクエストすれば、最近流行っているミュージシャンの歌も練習して、弾いてくれた。

『おかえり!今日は俺が夕飯、作ってみたよ!』

料理が苦手なはずなのに、雫が残業になってしまった時、彼はカレーやチャーハンなどを作って出迎えてくれた。

雫が落ち込んでいた時、コメディ映画を彼は取り出し、ソファに並んで座って映画を見た。どこか暗かった部屋の中は、笑い声で満たされていった。

そんな彼とは、三年付き合っていた。二年はこの部屋で同棲をしていた。

同棲をしたら、次にカップルにやってくるのは結婚だと雫も、周りもそう思っていた。だが、この部屋から彼は消えた。思い出だけを残して、この部屋から音と色を奪って消えた。
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