出戻り令嬢は、初恋執事に愛されたい。
「千隼、どうして……どうして勝手に」
「申し訳ありません。扉が開いていて、聞こえてしまって」
扉、開けたままだったとか間抜けすぎる。
仮にも男性と同居してるっていうのに……危機感なさすぎでしょ。というか、聞こえてしまったということは『抱いてほしい』って言ったことも聞こえてしまったのかな。なら好都合では?でも、真面目すぎるこの人に言ったら主人の願いだし“執事”として聞いてはくれるだろう。だけど、彼には想い人がいるって噂があった。
「……結琉さま?」
私が考え込んで黙っていたからか心配そうな表情をしてこちらに近づくと声を掛けてきた。
「ねぇ、千隼。あなたは、好きな人がいるって……本当?」
「……え?」
「昔、そう噂があったじゃない……千隼。私ね、あなたのこと好きなの。昔からずっと。この気持ちは言うつもりなかったのだけど、また人妻にならなくてはいけないみたいだから」
私は彼に近づくと、彼の頬に触れて背伸びをした。そして唇を重ねる。
「好きよ、千隼……私を抱いてちょうだい」
いつもなら合わせられない目を彼をまっすぐに見つめて、そう告げた。