出戻り令嬢は、初恋執事に愛されたい。
千隼に「配膳するから手を洗って来たらどう?」と言えば、彼はダイニングから出て行った。その間にランチョンマットの上に焼き鮭のお皿と漬物、ご飯を並べ味噌汁の入ったお椀も置いた……まるで、夫婦みたい。
そういえば、千隼は結婚していないのかしら……指輪はしていなかったけど、もしかしたらいるかも。無理に来てもらっているなら、私は自分のことできるし来なくても大丈夫だって言わなきゃ。
「……結琉さま? どうかしましたか?」
「ううん。なんでもないわ」
あなたのこと考えてました、なんて言えず私はご飯を食べ始めた。向かい側に座る千隼は「美味しいです、結琉さま」と言ってくれたのにまた素っ気ない態度をとってしまった。
本当なら、飛び跳ねたいくらい嬉しいのに。
「そうだ、千隼。あなた、結婚はしたの?」
「いえ。してません」
「そう。まぁ、そうね。モテすぎるせいで恋人もできないあなたには相手いなさそうですもの!」
……って、私が言えたことじゃないけど。
「そうですね」
千隼は、そう言って優しい笑みを向けて来た。