友だちでいたいのに

11. やさしい温もり

　部屋に戻ろうと、席を立とうとした瞬間。
　恭司があたしの腕を引っぱり、自分の胸に引き寄せた。
　驚く間もなく、恭司の顔があたしに近づき、唇にふれる。
　やさしい温もりとコーヒーの苦みが、かすかに口によぎる。
　思いがけない事態に、理解が追いつかない。
　にわかに顔が熱くなって、心臓のドキドキが止まらなくなってる。
「心配しなくても、瑠奈への気持ちは変わんねーから。ずっと」
「え……？」

　恭司は、トン、トンとやさしくあたしの背中をたたきながら。
「オマエ、自分はこうしたいとか、これがやりたいとか、昔からそーゆーの全然口に出さなかったよな。自分のことは二の次で、オレや、いっつもつるんでる女子の希望ばっかり優先して。思いやりがあるっつーか、お人よしっつーか」
……なにその言いかた。
　ほめられてんだか、バカにされてんだか分かんないよ。
「オマエのそういうトコロ、キライじゃないけど、ちょっと心配だったんだ。ずっとムリさせてるんじゃないかって。だけど、今ようやく聞けて安心した」
「なにを？」
　恭司は、ギュッとあたしを抱きしめて。
「瑠奈のほんとうの気持ち。なんかホッとした。オレ、オマエに嫌われてたわけじゃないんだなって」
　あたたかい体温に包まれて、張りつめていた緊張が、フワッとほどけていく。

「別にキライになんかなってないよ。あたしはただ……恭司と離れること考えたら、つらくなってきたから」
　すると、恭司は、なぐさめるようにあたしの頭をなでて。
「オマエさ、先のことばっかり考えすぎなんだよ。まだ明日のことも分かんねーのに、来年のことまで気に病むなって」
「……それ、ユカちゃんたちにも言われた」
　熊に笑われるって。
「そうだろ、アイツら分かってんじゃん。さすが友だち」
　ふふっ、と耳元で恭司の笑い声が響く。