友だちでいたいのに

5.楽しい夜なのに

 夜。とっくに消灯時間はすぎたけど、あたしたちは宿泊先のホテルで、お菓子や飲み物を広げながら、いつまでもしゃべっていた。

「あー♪ 今日楽しかった! 縁結びのお守りも買えたし、生八つ橋もガッツリ試食したし♪ 京都堪能って感じー」
 抹茶味の生八つ橋を片手に、ユカちゃんは上機嫌。
「あたしも、あぶらとり紙買えて満足! でも、リップクリームも買えばよかったかなぁ」
 今日の買い物を見ながら、美咲はうーんと考えこんでる。

「見て見て。ユカのナイトウェア。女子力バリ高くね?」
「うんうん! それカワイイよね〜!」
 ユカちゃんが着てるのは人気ブランドのネグリジェ。フリルとリボンがたくさんついてて、ガーリーなワンピースみたい。
 シンプルなスウェットの上下のあたしとは大ちがい。

「ユカ、まさかそのカッコで男子の部屋に突撃する気じゃないでしょうね?」
 美咲が冷ややかな視線を向ける。
「はぁ? うちの学年の男子なんてキョーミねーし。ユカの運命の相手は、国宝級イケメンだもん♪ てかさー、美咲。アンタが今着てるのって、中学のジャージだよね」
「そだよ、ユカ。悪い? あたしがジャージ着ちゃ」
 ユカちゃんは、へへっと笑って。
「いや、悪いとかじゃないけど。モテモテ無双の美咲が、中学のジャージパジャマにしてるって知ったら、ヘコむ男子とかいるんじゃね?」
「勝手にヘコましときゃいいじゃん、そんなヤツら」
 と、キッパリ美咲が口にしたので、あたしは思わずふき出した。
「あっははははっ……!」

「うわっ、瑠奈、すごいツボに入ってる」
 驚くユカちゃん。
「ご、ゴメン。つい、おかしくって」
「笑いすぎだよ。瑠奈、涙目になってる」
 美咲が心配そうにあたしの肩に手をやった。
「いや、こういうやりとりも、今夜だからできるのかなって。来年の今ごろは、大学受験の準備できっとそんな余裕ないだろうから」
 あたしは、泣き笑いしながら生八つ橋を口に入れた。
 とっても甘いはずなのに、心の奥に強い苦みが残る。

「瑠奈、気持ちは分かるけどさ〜。今は来年のことなんて考えるのやめなよ。ほら、よく言うじゃん。『来年のことを言えば熊が笑う』って」
「ユカ、それ熊じゃなくて鬼。熊が笑ってどーすんの」
 冷静にツッコミを入れる美咲に、
「えー? 熊も鬼もいっしょじゃね? 両方狂暴なんだし」
 自分の意見を曲げないユカちゃん。
「やめてよ、もう笑わせないで!」
 あたしはおなかを抱えて笑い続けた。

 ああ、もうすっごく楽しい。
 ユカちゃんや、美咲と話してると時のたつのを忘れてしまうくらい。
 
 なのに、なのに。
 どうして胸が痛いんだろう。
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