17歳の秋、君と過ごした1泊2日。
「ゆう、くん?」


わたしの背中は壁についていて、目の前には優くんの顔。


いわゆる壁ドン、ってやつ。


わたしの目には優くんが写って、優くんの目にはわたしが写る。


「っ、」


逃げられない。


「ねぇみゆ」


「...は、い」


怪しく微笑んだ優くん。


ドキッとするひまもなく、甘い声が響く。


「さっきさ、僕にドキドキしてたの?それともバレるかもってドキドキしてたの?」


「え、」


...甘い。


優くんの全てが甘い。


距離が近い。心臓がうるさい。
繋がれた手が熱い。


「みーゆ、教えて?」


そんなのっ...。


「今もドキドキしてる、から、わかんないっ、」


今この瞬間が甘くて恥ずかしくて、あまりにもドキドキしすぎて涙目になってしまう。


ジリジリと近づく優くんの顔。


近、い...。


唇が触れそうなくらいのその距離に、わたしは思わず目を閉じる、けど。


いつまでたっても何も起きない。


ん?


...いや、別に何かを期待してるわけじゃないけど!


不思議に思ったわたしは目を開けた。


「っ、」


相変わらず近い距離にある2人の顔。


すると、スっと離れて右の口角を上げる優くん。


「キスしてほしかった?」


「...へ?」


「そーゆー顔してる」


「しっ、してないよ!?」


否定したわたしの首筋に優くんが顔を近づける。


「ねぇみゆ、その顔まじでダメ」


今度はなに...。


と思ったのもつかの間。


首筋にチクッと痛みが走った。


「いっ...!」


「あ、ごめん強かった?」


いや、強かったもなにも。


「なに、したの?」


「今はこれでやめといてあげるから」


優くんの小さな声が届く。


「だから...もう少しだけ待ってて」

え?


そう言うと、今言った言葉を隠すように、優くんは私のほっぺに小さく音を立ててキスをした。


ーーーチュッ


なっ!?


「ちょ、っと...!」


「ここならいいでしょ。ほっぺだもん、キス未遂だよ」


...キス未遂って。


「じゃー行こっか」


なんだかひとりで満足そうにしている優くんは、先に路地裏から出ていこうとする。


「え、ちょっと置いていかないでよ...!」


急いで優くんのあとに続く。


わたし、優くんに振り回されてばかりだなぁ...。


「......ちゃんとケジメつけるから」


さっきよりも小さく言った優くんのこの言葉は、わたしの耳には届かなかった。

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