致し方ないので、上司お持ち帰りしました



勝手に落胆する私に吐息混じりの声が降ってくる。


「……泉さんだからに決まってるだろ」

「え、」

「誰でも発情するわけじゃない。泉さんにだけ。泉さんが好きだから、触れたくて触れたくて仕方ないんだよ。キスをした時も、隣に座る泉さんかわいいなって思ってたら、身体が勝手に……」

「え、だって。真白さんは恋愛が苦手って、」

「……だから驚いてる。誰かを好きになるのもはじめてで。もう、一日中泉さんのことで頭がいっぱいなんだ」


 嬉しいという感情よりも先に驚きがきた。

 だって、あの真白さんが私を好きだなんて。簡単には信じられなくて、口をあけたまま固まってしまう。



「30歳にもなって、恥ずかしいんだけど。ほんとう、」


 真っ赤に染まった顔をごつごつとした男らしい両手で覆った。彼の動作に急に現実味が湧いてきた。

 彼の恥ずかしがる姿がなんだかかわいくて、愛おしさがこみあげてくる。



 こんなに嬉しいことはない。
 だって、叶わない恋だと思っていた。

 好きになってはいけない相手。
 好きになってしまった自分が悪いと。

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