致し方ないので、上司お持ち帰りしました





「もう一度キスしてみますか?」

「え、え、」

「両思いなんですよね?」

「……お、お願いします」

「っぶ。待って。『お願いします』は、笑っちゃう」



 笑う雰囲気ではないとわかっていても、笑わずにはいられなかった。


 だって、30歳にもなるエリートイケメンが真っ赤に染めて「お願いします」なんて素直にせがんでくるのだから。


愛おしさしか感じられない。好きがあふれてきてしまう。



 「ははっ。真白さん、可愛すぎる」笑いが止まらなくて、背を向けて笑っていた。


 肩に力強い感触を感じたと同時に、体がぐるりと反転された。あたたかい吐息とともに唇に生あたたかな熱が伝う。


 どくん、と心がどよめく。
 唇から熱が消えると、伏し目がちな目が重なる。



「ほらね。我慢できなかった」



 鼻と鼻が触れる距離。とびきり甘い声で吐息交じりに囁いた。彼の吐息がかかると、思考回路は停止する。身体の奥がぎゅっと疼いた。


 
 さっきまでは顔を真っ赤に染めていたのに、余裕そうに笑みまで浮かべている。なんだか悔しい。悔しいほどに色気を感じてしまうんだ。

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