致し方ないので、上司お持ち帰りしました


 タクシーに乗り込むと、居心地の悪い飲み会から解放された解放感で満たされる。


 早く帰って、撮りためていたドラマでも見よう。そう思った次の瞬間。


 閉じかけていたタクシーのドアが乱暴に再び開いた。ドアが開くと同時に、急いで乗り込んでくる人物が。


 
「ごめん! 泉さん。一緒にタクシー乗せて?」
「は、」


 乗り込んできたのは、スーツがとても似合うイケメン。真白さんだ。

 ほっと息をついて完全に気を抜いていた。唐突に真白さんは現れたので、瞬時に反応が出来ない。


「お客さん、大丈夫?」


 言葉を発しない私を心配した運転手さんが、ミラー越しに心配の眼差しを向ける。その声にハッと我に返った。


「あ、大丈夫です。知り合いです。真白さん? 二次会は?」

「とりあえず、出してください!」


 私の問いに答える前に、真白さんは運転手に向けて言い放つ。タクシーの外には、女性社員がきょろきょろ辺りを見渡して、真白さんを探しているようだった。

 その様子から状況を察した。二次会に誘われるのが嫌で黙って逃げてきたのだと。


 タクシーが出発すると、真白さんは深いため息をついた。そして綺麗な瞳をゆっくり閉じる。


「泉さん、これ、俺の住所。運転手さんに伝えてくれる?」

 免許証と共に渡された1万円札。聞きたいことは山ほどあったが、私の分のタクシー代も払ってくれるということだろう。タクシー代を払わなくて済むなら有難い。現金なもので、それならいいかと納得した。




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