致し方ないので、上司お持ち帰りしました
「そうなんですか。イケメンの無駄遣い……じゃなくて、女性からモテて選び放題なのに勿体無いですね」
「俺、モテてるの?」
「モテてますよ。気づいてないんですか? 真白さんがその気になれば、一瞬で女持ち帰れますよ?」
「そんな、持ち帰るだなんて。俺そんな風に見える?」
「見た目はイケメンで遊んでそうなので、そう見えますね」
「遊んでいるどころか、俺童貞なのになー。ははっ」
軽い笑い声はすぐに消えた。真白さんは言った後に「あ、」と短い声を上げて、明らかにやってしまった。という表情をしている。
「え、」
「え、」
声が重なると、真白さんは口を大きく開けて気まずそうな表情を浮かべた。そして、すぐに両手で顔を隠した。
「わ。やべ。間違えた。お、俺は童貞じゃない! や、やりちんだから!」
あたふたと弁明をはじめた。
やりちんは自分でやりちんとは言わないと思う。そしてわかりやすく目が泳いでいる。
部屋に散らばっていた童貞に向けての自己啓発本。
その本の証拠だけでは、にわかには信じられなかったが、目の前で繰り広げられる彼の一挙一動が私の中で確信に変わる。
「真白さん。女性の経験ないんですか?」
「……」
言葉の代わりに大きなため息が聞こえてきた。潤んだ瞳を向けられる。
「誰にも……言わないで、ほしいです」
「はいっ! 了解しましたっ!」
胸を張って返事をした。場違いなほど大きな声だったと思う。胸の高鳴りを抑えきれずに声量が上がってしまった。